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水戸地方裁判所 昭和62年(行ウ)7号 判決 1990年7月31日

原告 月村浩子 外一七名

右一八名訴訟代理人弁護士 鹿野琢見

同 佐藤篤輔

同 成海和正

同 鮎川定徳

右訴訟復代理人弁護士 吉田慶子

被告 取手市外二町火葬場組合

右代表者管理者 菊地勝志郎

右訴訟代理人弁護士 海老原信治

同 小谷野三郎

同 武内更一

同 遠藤憲一

右指定代理人 成島幸夫 外四名

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告らの請求の趣旨

1  被告は、取手市市之代字西谷津地区に計画している都市計画火葬場(仮称西谷津公園斎場)の建設工事をしてはならない。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する被告の答弁

(本案前)

1 本件訴えをいずれも却下する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

(本案)

主文同旨

第二当事者の主張

一  原告らの請求原因

1  当事者

(一) 原告らは、循環疾患(脳卒中、心臓病)及びその基礎疾患(高血圧症、動脈硬化症、糖尿病等)のため、茨城県北相馬郡守谷町同地所在医療法人道守会会田記念病院(以下「会田病院」という。)に入院し、日夜懸命に治療と社会復帰のためリハビリテーションに努めているものである。

(二) 被告は、取手市、藤代町、守谷町をもって組織する地方自治法二八四条一項に基づく一部事務組合である。

2  火葬場建設

被告は、昭和六一年七月三〇日、右病院のリハビリテーション用訓練道を備えた病院施設用地にわずか二・七メートルの道路を隔てて隣接した茨城県取手市市之代西谷津地区(以下「本件予定地」という。)に、火葬場及び斎場(仮称西谷津公園斎場、以下「本件火葬場」という。)設置の計画を決定し、その建設工事(以下「本件工事」という。)に着手しようとしている。

3  原告らの差止請求権

(一) 原告らの有する本件工事の差止請求権の法的根拠は人格権である。

そして、本件において保護を求める利益の内実は、疾病の悪化ないしは人間の尊厳にふさわしい医療環境において治療に専念する利益の阻害に伴う直接間接の生命又は身体に対する侵害の排除の実現である。

(二) 本件予定地に本件火葬場を建設することは、以下の事実からすれば、原告らの人格権を侵害し、その侵害は社会生活上受忍すべき限度を超えることが明らかである。

(1)  本件工事に伴い原告らは、第一に、血圧が上昇し、さらにもともと高血圧を基盤とする疾病に罹患していることから、病状そのものも悪化し、生命、身体を直接侵害される結果となり、第二に、そこまでに至らないケースであっても、不安、動揺を惹起されて訓練意欲が低下し、リハビリテーション効果が減殺し、回復を阻害されるという重大かつ深刻な被害を被る。

さらに、本件工事により、救命救急センター、リハビリテーションセンター等を設置し、ベッド数一七八の総合病院であり、病院所属の理学療法士等を他の医療機関へ派遣するなど地域医療水準の向上にも寄与している会田病院が患者を失い、倒壊するという地域医療にとっても重大な損失が生じる。

(2)  茨城県条例第三六号「茨城県墓地、埋葬等に関する法律施行条例」(以下「施行条例」という。)三条一号は、火葬場の設置場所が病院又は人家から一〇〇メートル以上の距離がなければならない旨定めているところ、本件工事はこれに反する違法なものである。

すなわち、施行条例三条が要求する一〇〇メートルの距離制限の終点となる病院の範囲については、単に病院の建物に限定されることなく、医療行為の一環としてこれと密接に関連する有機的に組織化された施設までを含むと解すべきところ、会田病院はリハビリテーション専門病院としての特徴があり、リハビリテーション医療にあっては医療の大部分が病室外で行われることが特徴であって、戸外での歩行訓練はその重要な柱をなすものであるから、そのための施設としてのリハビリテーション用訓練道は重要な医療施設を構成するものである(なお、会田病院は昭和五六年七月の設立当初から右敷地をリハビリテーション用訓練道等の敷地として使用する予定であり、昭和五八年九月には同地につき賃貸借契約を締結し、以降これを使用しているのであって、本件工事にかかる都市計画決定〔昭和六一年七月三〇日〕後に敷設したものではない。)。さらに、施行条例三条但書は、「知事が土地その他周囲の状況から支障がないと認めるときは、この限りでない。」と規定し、右距離制限の例外を定めているが、本件においては、知事は被告の誤った報告により、本件予定地がそもそも距離制限に違反しないと判断したものであって、右但書を適用したものではない。

(3)  本件火葬場予定地域における火葬率は同地区においてはわずか三三パーセントにすぎず、市之代地区と合わせた平均値としても六〇パーセントにすぎないのであり、このように、本件火葬場建設により最も被害を被る同地、市之代地区においては火葬の習慣はなく、土葬の風習が根強く残っているうえ、これまで取手市外二町住民の依存している竜ヶ崎市市営斎場は現時点においても右住民の火葬の申込みを円滑に受け入れていることを考え併せると、かかる特殊な地域においては、火葬場は、住民の日常生活の維持、存続に絶対不可欠な施設とはいえず、本件工事の違法性を阻却するような公共性はない。

(4)  本件予定地は、右のとおり火葬には最も馴染まぬ地域であり、住民の根強い反対が容易に予想されたにもかかわらず、被告はことさらに何ら見るべき事前の住民対策を講じることなく、火葬場建設が都市計画決定されたとの既成事実を作出して、本件工事を強行しようとしている。

(5)  本件予定地は、「底無し谷津」と呼ばれる軟弱な地盤であり、また、たびたび小貝川の決壊による冠水被害のあった地域であるのに対し、火葬場としては、「牛久沼斎場」と呼ばれる適地が他に存在しているのであるから、本件予定地は、火葬場としては明らかに不適当である。

4  結論

よって、原告らは被告に対し、人格権による差止請求権に基づき、被告が本件予定地に現在建設を計画している本件火葬場の建設差止めを求める。

二  被告の本案前の主張

原告らのいう「人格権」の具体的内実、被侵害利益は明らかではなく、従って、原告らは何ら法的に保護された利益を侵害されるとはいえず、本件工事の差止めを請求する権利を有しないから、権利保護の利益を欠き、訴えの利益が存在しない。

三  請求原因に対する被告の認否及び主張

1  請求原因第1項(二)の事実は認め、同項(一)の事実は知らない。

同第2項の事実は否認する。

同第3項の事実は否認する。

同第4項は争う。

2  被告の主張(否認の理由)

以下に述べるとおり、原告らには、本件火葬場設置による権利侵害はなく、また、仮に侵害が認められるとしても、火葬場設置をめぐる各種要素を利益衡量するならば、右侵害は、社会通念に照らし、一般に受忍すべき程度を超えているものということはできないから、工事差止めを認める程の違法性を肯認することは到底できない。

(一) 被侵害利益について

(1)  原告らが侵害されると主張する権利ないし利益の内実は必ずしも明確ではない。

それらは、要するに、人格権の名の下に、入院中の患者個々人の情緒的、心理的被害をいうものと思料されるが、こうした情緒的、心理的被害は身体に対する侵襲ではないから、直ちに法的利益として保護される内実を有するものではない。

(2)  仮に、右が人格権として保護される対象となる法的利益であるとしても、本件において原告ら各人についてみると、そのような被害はない。

すなわち、原告らのうち、平成二年一月一九日現在会田病院に入院しているのは五名にすぎず、残り二一名(取下前の原告らを含む。)については退院しているのであるから、これらの原告らについては原告らがいうような権利侵害を被るおそれはないに等しいし、また、平成二年三月現在では、原告ら二六名(取下前の原告を含む。)は全員退院し、一部の者が通院によるリハビリテーションを継続しているのであるから、原告らについて、当初主張していたような権利侵害を問題とする余地はもはや存しない。そして、一旦退院後再入院した原告らがいるとしても、それが誰であり、如何なる権利侵害を被っているかは全く明らかにされていない。さらに、リハビリテーションの必要な患者らの平均入院期間は五、六か月というのであるから、情緒的、心理的被害を被るとしても、それは一時的なものにすぎないのである。

(3)  このように、原告ら主張の権利侵害の事実は、具体性を欠き、その侵害性は希薄という他はない。

(二) 侵害行為の態様、程度について

(1)  本件火葬場設置により、現に入院中の原告らに対して、騒音、振動、臭気、排水等による身体の侵害が生起する蓋然性は存しない。

(2)  また、本件火葬場の設置に際しては、敷地の端に斎場を設けたほか、火葬炉は二重燃焼構造として大気の汚染、悪臭の発生を防止し、周辺には植栽した築山や高さ約一五メートルの擁壁が構築される計画であり、周囲全体を公園化する計画と併せ、環境、景観等に対する十分な配慮がされている。

(3)  従って、本件火葬場設置による被害発生の蓋然性はない。

(三) 侵害行為の公共性について

(1)  本件火葬場の設置には高度の公共性がある。

すなわち、取手市外二町における火葬率は、都市圏化による人口流入により年々高率となり、昭和六〇年ないし平成元年度の平均が九四パーセント余に達しているが、これらの地域においては昭和四〇年以降火葬場がなく、長年他市(大部分は竜ヶ崎市営斎場)の火葬場を利用してきたところ、近年の火葬件数の増加により他市町村における使用は制限されつつあり(竜ヶ崎市とは協定による期限付利用である。)、取手市外二町固有の火葬場の設置が希求されている。また、一般に、葬儀は、それを取り行うためには一定の場所を要するところ、近年の取手市等の住居事情からは個人の自宅で葬儀を行うことが益々困難になりつつあり、取手地域における火葬場の建設促進は市民の悲願となっている。

(2)  取手市外二町は、昭和四〇年に被告を設立し、慎重に斎場施設計画を推進し、本件予定地を選定したものである。

すなわち、昭和四一年には守谷町立沢地区内、昭和五六年には取手市高井地区内、昭和五七年には取手市桑原地区内、昭和五八年には取手市役所敷地内がそれぞれ候補地として挙げられ、常総地方広域市町村圏事務組合(取手市、水海道市、藤代町、守谷町、伊奈町、谷和原村)においても、昭和五三年に取手市戸頭地区、昭和五六年に守谷町大山地区等これまで数か所の候補地が検討されたものの、いずれも地権者らの反対により断念せざるを得ない結果となった。右のような経緯を踏まえて被告は用地選定を慎重に行い、その結果、地権者らの協力もあって地理的条件に恵まれた本件市之代地区が選定されるに至った。

(四) 施行条例違反について

原告らは、本件火葬場の設置が施行条例違反として無効であると主張するが、右主張は、施行条例の解釈を誤ったものであり、失当である。

すなわち、施行条例三条にいう「一〇〇メートル」の距離計測の起点となるのは、火葬炉の収納されている建物であって、それらの敷地をいうものではないのであるから、本件の場合、会田病院から本件火葬場施設までの距離は、優に一〇〇メートル以上離れているのである。また、「一〇〇メートル」の要請はあくまでも原則であって、同条但書は、「知事が土地その他周囲の状況から支障がないと認めるときは、この限りでない」として例外を認めているのである。

従って、本件火葬場設置は施行条例三条に違反するものではない。

第三当事者の提出、援用した証拠<省略>

理由

第一被告の本案前の主張について

被告は、原告らが法的に保護された利益を侵害されるとはいえないので権利保護の利益を欠き、訴えの利益が存しない旨主張する。

しかしながら、原告らは、人格権という名の下に、本件火葬場設置により直接又は間接に原告らの生命身体が害されるとして本件工事の差止めを求めているのであって、右利益は法的に保護されるべき基本的権利であると解されるから、原告らは権利保護の利益に欠けるところがなく、従って本件訴えの利益を有するというべく、被告の右主張は採用することができない。

第二本案について

一  当事者

請求原因第1項(二)の事実は当事者間に争いがない。<証拠>によれば、原告らは、いずれも循環疾患(脳卒中、心臓病)及びその基礎疾患(高血圧症、動脈硬化症、糖尿病等)に罹患していること、原告らはいずれも本件訴訟提起時(昭和六二年一一月七日)においては、会田病院に入院していたが、平成元年一二月三一日までに一旦全員退院し、現在は原告石橋清のみが同病院に入院していること、その余の原告らのうち、少なくとも原告月村浩子、同鹿野芳子、同中島彰夫、同兼子紀年、同直井貞男、同小松崎和夫、同清水スミ、同西谷元、同伊藤愛子はいずれも同病院において現在も通院治療中であることが認められる。

二  火葬場建設

<証拠>によれば、請求原因第2項の事実が認められる(なお、昭和六一年七月三〇日に取手市が取手都市計画火葬場を決定し、昭和六三年四月一四日に取手市長が被告に対し墓地、埋葬等に関する法律に基づく本件火葬場の経営の許可をしたものである。)。

三  原告らの差止請求権

1  原告らは人格権を根拠に本件工事の差止めを求めているところ、その被害の内容として、火葬場が本件予定地に建設されることにより、脳血管障害患者である原告らの血圧上昇を引き起こして病状が悪化し、原告らが生命、身体に受忍限度を超える被害を受ける蓋然性が高い旨主張する。

しかしながら、右主張事実は、これを認めるに足りる証拠がない。

<証拠>には、ストレス、外的因子の影響により血圧が上昇し、脳血管障害等の患者の病状が悪化する危険性がある旨の指摘があるが、右はあくまで一般的可能性を指摘したにとどまり、原告ら個々人について、その生命、身体に対し、どのような被害が発生するか、あるいは、本件工事と右被害との因果関係の有無等について確定する証拠とはなり得ない。また、<証拠>によれば、会田病院において、昭和六三年七月に、入院患者四〇名を対象に、本件工事の影響等についてアンケートを実施したこと、その結果、本件工事の着工を知った者一六名のうちの四分の三が精神的衝撃を受け、さらにその三分の二が不眠、血圧、脈拍の変化等の身体的影響を受けた旨の回答をしていることが認められるが、右アンケートについては、詳しい実施条件が全く不明であるほか、右回答者と原告らとの関係も明らかではなく、さらに回答者の病状の変化についてもきわめて漠然としたもので、具体的な病状の悪化を認めるに足りる的確な証拠とは認められない。他に、右主張事実を認めるに足りる証拠はない。

2  また、原告らは、火葬場が本件予定地に建設されると、その火葬場という施設の性格上、原告らに不安、動揺等精神的、心理的悪影響がもたらされ、リハビリテーション効果が減殺し、回復が阻害されるという被害を被ると主張している。

確かに、火葬場のような嫌忌施設の建設の場合には、その近くで暮らさざるを得なくなることによる不快感という問題が生じることは否定できないし、また、原告らのように疾病に罹患している者が健康な者に比較してその不快感が強いであろうことも推認するに難くないところである。

しかしながら、右のようないわば心理的、情緒的被害が、仮に人格権として保護されることがあり得るとしても、直接的な身体被害が生じる場合に比してその保護の必要性が低いことは明らかであり、この点は差止請求における受忍限度を考えるにあたっても十分斟酌されるべきであると解される。

3  そこで、本件火葬場を本件予定地に建設することが原告らの受忍限度を超えるものであるか否かにつき検討する。

(一) <証拠>によれば、本件火葬場を使用する予定の取手市、守谷町、藤代町は、近年都市化現象に伴い人口増が著しく、これに対応して火葬件数も年々増加していること、昭和六〇年度から平成元年度の右一市二町の火葬率の平均が九四パーセント余に達していること、前記一市二町は、今まで固有の火葬場を有しておらず、その住民は竜ヶ崎市等の近隣の他の市町村の火葬場を借用していたこと、竜ヶ崎市等も近年火葬件数の増加などから、他市町村住民の利用に難色を示しており、従来借用していた火葬場の使用を今後制限される可能性が強いこと、従って、火葬場を建設することが被告にとって急務であること、今日においては死体処理方法として火葬が広く一般的に行われており、被告が火葬場を設置することは、その住民の社会生活上欠くことができない高度の公共性を有すること、右一市二町は、火葬場の建設が必要であることを認識して昭和四〇年に被告を設立し、火葬場建設を計画してきたが、地権者等の強い反対により用地を取得できず、火葬場建設予定地を転々と変更してきたこと、そこで、被告は用地選定を慎重に行った結果、本件予定地が新しい火葬場の建設用地として適地であると判断して用地を取得したこと、被告は、平成二〇年末までに本件予定地よりさらに適地の獲得に努め、適地が得られれば、そこへ火葬場を移転する予定であること、本件火葬場の設置に際しては、本件火葬場への進入路を会田病院と反対方向の南側に設け、火葬炉は二重燃焼構造として大気の汚染、悪臭の発生を防止し、会田病院側には植栽した築山や高さ一五メートルの擁壁を構築し、会田病院屋上からも火葬場施設が見えないような構造とし、周囲全体も公園化する計画であることが認められる。

原告らは、本件予定地である同地地区、市之台地区における火葬率が低いことを理由として、住民の社会生活に火葬場が不可欠とはいえないと主張し、<証拠>によれば、前記二地区の昭和五九年から昭和六一年の平均火葬率が六〇パーセントであることが認められるが、本件火葬場を使用するのは、前記二地区を含めた一市二町の住民であり、従って、火葬率も一市二町全体のそれを基準として考えるべきであると思料され、ことさらに前記二地区の火葬率を強調する原告らの右主張は採用することができない。

また、原告らは、本件予定地に比し、牛久沼付近にはもっと火葬場に適した地域がある旨主張するが、<証拠>によれば、牛久沼付近は昭和四四年三月首都圏近郊緑地保全法に基づき牛久沼近郊緑地保全区域に指定され、この区域内の建築物の新築等が制限されている事実が認められるから、火葬場の建設は困難なものと考えられ、この点に関する原告らの主張も採用できない。

原告らは、本件火葬場建設に際し、事前の住民対策が不十分である旨主張する。確かに、<証拠>によれば、少なくとも、本件火葬場建設に関し、会田病院やその患者の理解を得られなかったことが認められるが、他方、<証拠>によれば、被告ないし取手市は会田病院の反対意見も考慮に入れたうえ、本件火葬場建設を決定したことが認められるのであって、右に照らせば、会田病院や原告らの理解が得られないうちに本件工事に着工するということ自体が原告らの受忍限度を超える違法性を基礎づけるものではないというべきである。

さらに、原告らは、本件火葬場建設により、公共性のある会田病院の患者が減少し、倒壊するおそれがある旨主張するが、これを認めるに足りる的確な証拠が存在しないうえ、右の点も原告らの受忍限度と直接結びつくものではなく、右主張は直ちに採用できない。

(二) 以上、原告らの被侵害利益、火葬場設置の必要性、緊急性、公共性、本件火葬場設置に至る経緯、代替地の不存在、本件火葬場の構造及びその付近の環境整備対策等の諸点を考慮すると、火葬場が本件予定地に建設されることによって、原告らが精神的、心理的不快感を覚えることがあるとしても、それは、原告らにおいて受忍すべき限度内のものというべきである。

(三) 原告らは、施行条例三条の距離制限違反も主張している。

しかしながら、右のような行政法規に違反することが直ちに原告らの人格権を侵害することにはならないうえ、仮に右距離計測の基点をそれぞれ病院敷地と火葬場の敷地と考えたとしても、同条は、その但書の存在からも明らかなように、規制内容に幅があり、行政側の裁量が認められている規定であって、前記のとおり、本件火葬場においては、病院に対する配慮もされているのであるから、本件火葬場敷地と会田病院敷地が幅員二・七メートルの道路を隔てて接しているという事実だけで本件火葬場の設置が施行条例三条に違反するとは断定できず、この点も受忍限度を超える違法性を基礎づける根拠となるものではない。

(四) その他原告らの精神的、心理的不快感が受忍限度を超えることを肯認すべき証拠はない。

4  そうすると、原告らの人格権に基づく火葬場建設差止請求権を認めることはできない。

第三結論

以上の次第で、原告らの本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 矢崎秀一 裁判官 山崎まさよ 裁判官 神山隆一)

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